寄与分について

寄与分の主張

 最近は相続や遺言に関する記事が一般の週刊誌でも採り上げられるほど
この手の話題が広く認識されてきたようですね。

 その中でも「寄与」や「特別受益」といった相続時のいわゆる「上乗せ」
に関しては特に関心が高いようです。

 ですが、その実態についてはあまり正しい認識がされていないようで
「こういう行為を私が一人で担ってきましたから寄与分の主張は出来ますよね?」
「長年の私の貢献はどのくらいの額になるのでしょう?」
「これだけの貢献をしてきました、相続人と同等の権利は主張出来ますよね?」
など等、色々な声を雑誌で目にしたり人伝に聞いたりします。

 今回はこの「寄与分」についての基本的な考え方を簡単に紹介したいと思います。

 

 

寄与分とは?

 そもそも寄与分とは何かから述べたいと思います。

 相続が発生し、共同相続人の中
その身分関係や親族関係から通常期待される以上
被相続人(故人)の「財産の維持または増加について特別の寄与」
をしたものがある時に、
その寄与者の相続分に「寄与分額を加算する」
ものとされています。

 上記した「特別の寄与」を評価して算定した割合や金額のことを
「寄与分」と言います。

 

 

寄与分が認められる条件

 まず、前項の冒頭に書いたように
相続人であることが大前提となっています。
前項で「共同相続人の中から」とあるのがこの意味です。

 例えば被相続人に子供がいた場合、
親、孫は相続人には該当しません。
なので、孫が寄与分を主張することは出来ません。

 次にあるのが、
通常期待される以上の財産維持や増加への貢献という条件です。

 これらを具体的に説明すると以下のようになります。
(寄与分が適当と認められるための事実)

・寄与行為が相続開始前の行為であること
 被相続人が亡くなった後に葬儀を取り仕切った、法要を実施した、
 故人の不動産の管理を行っているなどは対象外です。
 当たり前のことですが、生前の行為が対象です。

・寄与分として認められるだけの要件を満たしていること
 ここでは期待以上の貢献という点が関係してきます。

 その行為が被相続人にとって必要不可欠だったこと
 特別な貢献であったこと
 被相続人から「対価」を得ていなかったこと
 寄与行為が「一定の期間」あること
 片手間で出来る事ではなくかなりの負担を要していたこと
 寄与行為と被相続人の財産の維持または増加に因果関係があること 

  これらのうち一つでも要件を満たしていなければ
 寄与行為と認められることが難しくなるとされています。

・最後に、客観的な裏付けとなる資料の提出が求められること
 第三者が見ても納得し、主張はもっともだと分かる程度の資料を
 用意して提出する事が求められます。

 

 ここで紹介した各要件の定義は、
既に多くのサイトでも紹介されているものです。
寄与分に関してより詳しい内容を知りたい場合は、
東京の場合、東京家庭裁判所家事第5部が窓口となります。
必要がある場合は直接問い合わせてもいいかもしれません。

 寄与分を主張したい!と考えているのであれば、
事前にここにある要件を果たして自分は全てクリアしているだろうか?
独りよがりの楽観的な考えで行動を起こそうとしてはいないか?
自分の主張に無理はないだろうか?
など等、足元を見直す効果が期待されるものと考えます。

 

 

寄与分の主張の前に

 必ず覚えておいていただきたいのが
扶養義務の範囲内の貢献は、寄与には該当しません。
 この一点を特に肝に銘じておいて下さい。

 ひとつ、具体例を紹介しますと、
よくあるのが病気療養中の被相続人の療養看護に
特定の相続人が従事したことを主張するケースです。

療養看護が本当に必要だった病状であること
 さらに近親者による療養看護が必要だった

 ひとり暮らしで寂しそうだったので毎週顔を出した。
 週1回は電話連絡をして安否確認を継続してきた。
 この様な行為は、扶養義務の範囲内です。

 また、入院や入所した場合はその期間は寄与行為とは
 まず認められません。前述したように病院や施設に
 毎週顔を出す程度の行為は対象外です。

・特別な貢献であること

 同居して日々の暮らしの補助をした、
 家事を分担して負担を軽減させたでは
 通常の期待を越える特別の寄与ではありません。

・継続していること

 明確な基準はありませんが、ほぼ1年以上の期間、
 行為が継続していた場合に検討されるようです。
 各種の事情を考慮して個別判断が下されることもあるそうです。

・片手間でなく相当の負担を要していること
 仕事の合間、通勤前や退社後、土日のみの訪問(介護等)では
 相当の負担を要する介護とは言えません。
 扶養義務の範囲であり、親族間の協力の範囲内です。
 いわゆる付きっきりの介護のレベルでないと対象外と考えられます。

・対価を得ていないこと

 無報酬、あるいはそれに等しいほどの対価であること、
 加えて相続人が被相続人の資産や収入で生活をしている場合、
 表面上は無報酬であっても、対象外と見做されるようです。

・被相続人の財産の維持、増加への貢献

 看護や介護と財産の維持や増加に貢献?
 一見すると関連性が無いように見えますが、
 施設への入所をせずに自宅で看護を続けていれば
 被相続人の財産を減少させることを防ぐことになります。
 看護人を雇ったり、入院・入所費用と言った出費を防ぐ、
 これは被相続人の財産の維持と見做されます。

 裏を返せば、
 相続人の費用で看護していることが前提になるということです。

 

 最後に、上記の案件を全てクリアしている場合、
その証拠を収集しておくことが欠かせません。

 例えば、
入院期間が証明出来る医療機関の領収書
施設利用時の利用代金の明細や利用契約書
介護サービス利用時の利用票とケアプラン
要介護の認定通知書や認定資料等(担当医の意見書、認定調査票等)
診断書

 こういった資料があれば、
被相続人の病状の把握や要介護の状況の把握、
療養看護の内容の証明と入院期間の証明が出来ます。

 最後の最後に資料を紛失、破損などで
「証拠不十分」で却下では、泣いても泣ききれませんね。

 

終わりに

 如何でしょうか?
恐らくここまで厳密な基準が設けられていたのか!
自分たちのやってきた行為が扶養義務の範囲内だなんて!
と驚かれた方は少なくないことと思います。

 典型的なパターンでは
ずっと親父の面倒を見てきたのだから遺産相続時には
寄与分として上乗せを主張するという長男に対して、
別居していた次男以下がその証拠を見せろ、どういう面倒だった?
といった反撃を開始し、収拾不能な争族と化す…

 長男側には残念ながら(憤懣やるかたない?)
寄与分の主張はかなり難しいというのが現実です。

 まずは、寄与分の条件を熟知し、自分たちの行為が
寄与に相当するかどうかを冷静に判断する事。

 この手間ひとつで
起こるはずのない兄弟間の争いが防げるのです。 

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この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
フェイスブックページ「50歳からの人生設計相談室」
ブログ「新・先憂後楽」
コラム「マイベストプロ東京」
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