生前整理では優先順位を意識して

NO品

【はじめに】

 先日終活の件で訪れた70代の男性相談者の話です。

「最近体調を崩したことで終活を考えるようになりました。
 そこでまずは身の回りの整理からと思ったのですが、
 趣味の品の整理がどうにも捗りません。
 何かこれといったコツがあれば教えて欲しい。」

 預貯金や現金、不動産等の財産一覧を作成する際に、
これに続くものとしては貴金属類や骨とう品、美術品に加えて
趣味の品の整理という課題が出てきます。

 多くの男性は、
他から見れば「何の価値もない、関心も湧かない。」
と言った趣味の品の収集に血眼になる傾向が見受けられます。

 知っている範囲でも、
戦後すぐに製造されたブリキのおもちゃ
切手や古銭と言った品
有名作家や漫画家のデビュー作の初版本
70年代に流行った特撮物のソフビ人形・・・
※ちなみに私は統一スケールで製作している艦船模型です

 など等、好きな人には堪らないものでも
大多数の一般人には無価値としか見えない。

 こういった品々の整理は
他の家財等の品目と異なりビジネスライクに割り切って
粛々と行うことが出来ずに時間ばかりが過ぎていきます。

 今回は特に家族の中に「同好の士」のいない趣味の品の
生前整理について紹介したいと思います。

 

【趣味の品の終活】

 先に紹介した貴金属、宝石、美術品であれば
ある程度その商品価値は一般的ですし、引く手あまたです。
ですが、上記したような知る人ぞ知るコレクションの類は
本人の思い入れと周囲の温度差が顕著です。

 例えばそれが夫婦そろっての趣味、
あるいは親子二代の共通の趣味であればまだしも、
家族からも厄介者扱いされていた品々であれば?
それが何も整理もされないまま相続発生となれば
どうなるでしょうか?

 本人にとっての最悪のケースとしては
「粗大ごみ」「廃棄物」扱いで処分されることでしょう。
一部のマニアに売ればン万円、ン10万円といった品は
ざらにあるのですが、これも知らぬが仏、と言えるでしょうか? 。
 
 または廃棄はしないまでも
形見分けの品として適当に親族や友人に渡ることも考えられます。

 先のごみ扱いよりはましですが、
今迄愛蔵してきた当人にとっては
不本意な相手への形見分けになるケースも多く、
もらったはいいが、結局手に余る品でしかなく、
ごく短期間に「粗大ごみ」で処分となるケースも想像出来ます。

 せめて価値の分かる友人にと思っても
その想いを誰にも伝えないまま死んでしまえば後の祭りです。

 また買取業者と売買の交渉をする際にも
その知識皆無な相続人が窓口となれば、
百戦錬磨の業者側の一方的な交渉ペースの前に
信じられない安値で買い叩かれることは避けられません。

 これも所有者から見れば悔しいことでしょうが
後悔しても悔やんでもどうにもならないのです。

 

 価値の分からない、所有するに値しない後継者に
引き渡すということは上記のような結末に至る。
残念ながらこの傾向は少なくはありません。

 貴方にとって絶対的な価値を持つ品、
市場価値が限られた中で正しい評価額で売却したい品
こういった思い入れのある品の始末こそ
所有者である貴方が、自ら行うべきものなのです。

 

 

【処分には順番があります】

 大前提は、

貴重な品、愛蔵の品から
「最優先に処分を決める」
「自分の手で換金・譲渡する」

 相談に来られた方も
「とりあえず、価値のある品とそうでもない品に分類して、
 処分にあまり抵抗のないものからフリマやヤフオクに出して
 それ以外のものは廃棄して、分量を減らそうかと考えています。」

 逆に言えば、価値のあるもの、愛着のあるものは
最後まで手元に置いて最後は家人に引き渡したいというものでした。

 どれにも思い出がありそれなりの愛着、執着があって決断出来ない!
といった優柔不断の方よりはまだましですが、
これも適当な「生前整理=断捨離」とは言い難いものがあります。

 ではなぜ、
愛着のあるもの、価値のある品を先に処分すべきなのでしょう?

 

 

【自分の判断で始末することの意味】

 先に述べたように、第三者には「ガラクタ」同然の品であれば
先ずその価値や評価についての理解を求めなくてはいけません。

 家人に同じ趣味嗜好の持ち主がいれば話は早いのですが、
ほぼ大半のケースは奥さんからは早期処分を常に言われていたり、
子供からも邪魔者扱いされて保管場所の確保に苦労しているようです。

 ここで、所有者の貴方が家人に何も伝えないまま急逝したら?
同じ趣味を持つ友人に後を継いで欲しいという想いを伝えないままなら?

 全てのコレクションは一律の扱い=ガラクタ処分、は必至です。

 何品か生前にその評価額について家人に伝えていたとしても
売却する相手(古物商など)探しにまず苦労しますし、
仮に見つかったとしても、先方はそれを生業としているプロです。
いい品であればあるほど、買い叩こうとするのは商売の基本です。
「故人の話ではいくらが相場だと聞いてますが?」と話しても
「それは何年前の評価です。今は下落してます。」
「その評価の品とはこれは似てはいますが別の品です。」
と反論されれば、対抗する術はありません。

 複数の業者に相談するといった手間をかける余裕もなければ
結局は言い値で売ることになります。

 

 それ以上に、
鑑定に出したり、売却の為に一日時間をとる暇などない、
として粗大ごみの日や不燃ごみの回収日に処分されるかもしれません。

 売却するにしても基礎知識を有し、市場の相場にも詳しい本人が
古物商とやり取りするとなれば、適正価格での売却が可能です。

 廃棄の前に、
後を託すに足る同好の士に連絡をして
引き取ってもらう手はずも当事者ならば容易に出来るはずです。

 

 ですが、実際には
最後の瞬間まで愛蔵の品、愛着ある品は手元に置きたい、
といった想いから最後の最後まで手付かずのままになっています。

 その結果は、
貴方の想いなど1%も反映されない結末になるかもしれないのです。

 

 

【気付けない思い入れの差】

 自分が愛着があるから
家人も同じと考えるのは大きな間違いです。

 特に生前から家人には迷惑な存在と思われている場合には、
早期処分を優先されるという前提で考えるべきなのです。

 愛するものだからこそ、自分の手で新たな落ち着き先を見つけるのです。

 

 家人の立場からしても
いくら無駄、邪魔、と言う見方をされていたとしても
やはり故人の思い入れを知っているだけに安易な処分には
躊躇うケースも少なくありません。

 実際に遺族の方からの声の中に
「私たちには全くの不用品、
 だからと言ってドライに処分することも出来ない。」

「せめて何か言い残していてくれれば、
 こんなに悩まなくて済んだのに。」

 やはり無価値・意味不明なモノと判断は出来ても
大切な家族の遺品となれば、心には葛藤は生じるものです。
その結果、故意ではないとしても
遺された家人にただでさえ煩雑な相続手続きに
さらなる時間を費やし余計な労力を強いることになるのです。

 せめて遺言で指示を明記しておいてくれれば…
 生前に自らの手である程度まで処分を進めていてくれれば…

 家人にはこんな思いをさせ、
愛蔵の品々は廃棄されたり不当な安値で売却される、
または不本意な人物の手元に置かれる。

 そして自分自身も悔いの残る結果をあの世から見ることになる…

 誰も何の得のない結末を避けるためにも
自分の手で納得のいく処分を下すことこそが愛着の品への
思いやりではないでしょうか?

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この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
フェイスブックページ「50歳からの人生設計相談室」
ブログ「新・先憂後楽」
コラム「マイベストプロ東京」
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