はじめに
遺言を遺すと言われた場合、
多くの方は「自筆証書遺言」を思い浮かべるようです。
私が事務所を開いた12,3年前の時代では
「遺言」という言葉を前面に出すような告知は
殆ど見受けられないものでした。
それが今では遺言書を作成する、
といった終活についての認識が進んだおかげで
逆にどういった書き方、誰に託せばいいか?
等など、突っ込んだ考えを持つようになってきたのは
非常にいい傾向と私は思っています。
そんな中、具体的な行動を起こした際の
初歩的な注意点について、簡単にまとめてみました。
遺言書を託す相手
自筆証書遺言の場合、
よくドラマでは顧問弁護士や専門家に託すケースがあります。
概ね、その弁護士や専門家は
故人の幼馴染やクラスメートという設定が多いのですが、
この場合に限らず、同世代や高齢者に託す際には
「遺言書を託した専門家が先に死亡したら?」
というリスクがあることを前提としなくてはいけません。
当然ですが、存命中に
相続人に保管場所を教えるはずはなく、
個人事務所であれば、自分以外に知るものはなく
人を雇っているような事務所であっても
保管場所すらスタッフに伝えていない場合があります。
これでは自宅のどこかに秘匿したまま家族の誰にも伝えず、
急逝してしまったケースと非常に似た結果となりかねません。
生前にあの弁護士に託してあると家族に伝えていたとしても、
その弁護士が当事者と相前後して亡くなり、
他の人物に遺言書の内容も保管場所も伝えていなければ
手探り状態のまま、あっという間に10か月の期限が迫ってきます。
そうなると遺産相続は
結局遺産分割協議による財産分与にならざるを得ません。
無論、高齢者に限らず若くして早世する可能性もあります。
不慮の事故や事件で亡くなるケースは年齢を問いません。
とはいえ、あえて高齢の専門家に預ける場合には、
遺言作成者の責任として、この点をよく吟味する必要があります。
診断書の取得
特に相続人間に険悪な関係者がいる場合等には
作成した遺言書の正当性を巡っての争いが生じるケースがあります。
「この日付の時にはもう寝たきりで意識混濁だったはず!」
「既に認知症だった親を同居の兄が誘導して書かせたに違いない!」
等など、第三者からすればまさに泥仕合にしか映りません。
こういう騒動を避けるためには
当事者には抵抗あるかもしれませんが、
専門医の診断を受けておき、
「遺言作成時は正常な判断力を有していた。」
と言う診断書を用意しておくのもひとつの手段です。
タイミングは作成の直前でもいいですし、
作成直後でもいいでしょう。
事前にお墨付きのある診断書を入手しても、
肝心の遺言書の作成に手間取ったことで、
遺言書の完成が診断から何年か後となってしまうと
現状にそぐわない診断書と見做される余地が出来てしまいます。
遺言書作成直後に診断を受けた方が効率的かもしれません。
ケアレスミスの防止(氏名のミス)
ミスと言われると
財産の金額や不動産の所在地のミスといった
財産に関するミスを思う方は少なくありません。
ですが、肝心要の相続人氏名にミスをするケースも
決して皆無ではないのです!
まさか我が子の名前を間違えるはずはない、
と思いがちですが人間ついうっかりは避けられません。
「一郎」と「一朗」「治郎」と「冶郎」など
シンプルな名前ほどやらかしがちなようです。
実際のところ、本名は「百合枝」だった実の娘を
父親は「百合恵」と記載していた事例がありました。
遺言書の内容に不満のある相続人の一人が
こういったケアレスミスを衝いて
無効の主張をするケースも少なくないようです。
さらには自筆証書遺言であることで
「改ざん」リスクも考えなくてはいけません。
仮に名前に「一、二、三」といった漢数字が入っていると
例えば一を二に、または「市」に改ざんすることは容易です。
特に縦書きの遺言であれば、
横書きに比べ不自然な並びになり難く
存在しない相続人名として疑義を生じさせます。
こういうトラブルを避けるには
氏名に続いて生年月日を記載することで
一気に安全性・信頼性が高まります。
遺言書の保管場所(貸金庫)
冒頭に紹介したように
誰かに託すのはリスクがあり躊躇するような場合、
銀行の貸金庫に保管するというやり方があります。
これなら保管を託した人の先立たれる心配も皆無で
相続人が盗み見する可能性もほぼありません。
ですが、ここでも問題は存在します。
まずは貸金庫の存在を家族にも伝えていなければ、
貸金庫の契約書等の証拠を何も残していなければ、
家族は探すという行動すら出来ません。
仮に貸金庫の存在は知っていても
今度はそこに遺言書保管の事実を伝えていなければ
これもまた厄介なことになってきます。
また、貸金庫の開錠、解約の為には
契約者の遺言書の開示か相続人全員の同意が必須です。
ですが肝心の遺言書が金庫内では開示出来ません。
全てを記載してある(筈の)遺言書が
この金庫の中に入っているからといくら銀行側に説明しても
私が聞いた範囲では開錠には応じないというのが
一致した回答でした。
こうなると、
相続人全員の合意を取り付け、銀行員立ち合いの下で
金庫を開ける方法しか残されていません。
疎遠な兄弟、海外在住の兄弟などがいた場合は
相当な時間と手間が容易に想像できますね。
おわりに
自筆証書遺言で想定出来るリスクの中でも
代表的な事例を紹介してきましたが如何でしたでしょう?
費用が格安で済む、
自分の想いを誰にも知られずに書き残せる。
その反面、
ここに挙げたような遺言書本体の信ぴょう性を欠くような
ミスを犯しやすい。
保管先の選択を間違えると存在が知られないまま
闇に葬られてしまう。
等といった大きなリスクも同時に発生します。
この様な点を総合的に踏まえたうえで、
悔いのない内容の遺言書を作成し、
保管方法についても気配りをしていきたいものですね。
この記事の著者
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東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。
主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
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