家じまいについて考えること

【はじめに】

 最近になって友人や知人から老親の喪中連絡が続きます。

 その結果、実家がついに空き家になった、
あるいは存命な配偶者は既に家を離れて入院、入所中といった
状況から、この夏(のお盆の時期)を前にして具体的な家じまいや
家財整理に関して今出来ることは何かといった相談が増えてきました。

 実家が完全な空き家になるのか?
 一人暮らしになる老親に実家を退去してもらうのか?
 家を残すのか、早急に手放す、あるいは更地化するのか?

 どういった状況下にあるかによっても家じまいの内容は変わります。
今回は空き家になった時点、空き家が前提での家じまいという設定で
紹介していきたいと思います。

 

 

【最初に行うこと】

 まずは家族(関係者)全員で、
今後どうするかを協議して
全員一致での結論を出すことです。

 空き家となった実家の家じまいと言っても
将来利用する予定が親族の中にいる。
近隣に兄弟姉妹のうちの誰かが暮らしている。
売却(購入)に向けた具体的な動きがある。

 ざっと考えても上記のような背景が思い浮かびます。

 まず、当たり前のことですが
家じまいの可否について全員の意思を確認することが第一です。

 仮に家じまいを全員一致で決めた場合は
同時に誰が主導的立場を担うかまでを決めておきましょう。
後日、いざ行動に移る際に時間の節約に繋がります。

 

 

【名義人の確認】

 次に欠かせないのが対象家屋の不動産名義の確認です。
中には亡くなった親どころか祖父以前の名義のまま今に至った
という厄介なケースもあるのです。

 家族全員の意思は一致しても
肝心の名義人が不在(または別人)であれば
家じまいの進め方を一からやり直さざるを得ません。

 この4月からは相続登記の義務化が始まります。
家じまいの予定がなくとも、現在の名義人が誰なのかは
確認しておくことをお薦めします。

 また、空き家状態であっても
名義人である老親(のどちらか)が健在の場合には
認知症等による判断力の欠如の問題が出てきます。

 もし認知症の発症や不測の事故や発病によって
自分の意思を伝えられないような状態の場合、
名義変更を含めて家への諸々の手続きは塩漬けとなります。

 残酷な話ですが、
名義人死亡による相続発生まで家の始末は出来ないのです。
好条件での売却交渉があったとしても、指をくわえるだけです。

 親がまだ健在のうちに家じまいの話を持ち掛けることは
子供にとってはかなりの負荷がかかる話し合いになるでしょう、
ですが上記のような結果を招いてからではより負荷がかかるのです。

 万一に備えるならば、
正常な判断力のあるうちの任意後見契約の締結や
資産の一部を家族に信託する民事信託の利用を検討することですが
これもあくまでも親の同意があってこそ進めることが出来る話です。
 

 紹介する内容かどうか迷いましたが
最終的には相続放棄という選択も残されています。

 既に何年も空き家状態で親族の誰もが相続を希望しない場合、
または相続人がおひとり様で次代の相続が発生しないような場合、
さらにその空き家以外に相続財産に値するものが皆無、
といった場合にはこの選択も止む無しと思います。

 当然ですがその結論以前にあらゆる方策を検討することは
言うまでもないことで、地元の不動産業者への売却の依頼や
自治体の窓口での対処法の相談等、近隣に迷惑にならない為の
対策は徹底的に考えるべきなのです。

 ただ相続放棄が認められた場合でも、
空き家の管理義務(現在は保存義務と呼称)については継続する場合があります。
ここでは詳細は省きますが、相続放棄イコール完全な縁切り
ではない場合があることは理解しておく必要があります。

 

 

【情報収集】

 具体的な家じまいの為の行動としては
売却を望むならば、先に書いたように地元の業者に連絡して
売却希望の旨を伝えて仲介を依頼することです。

 出来れば一社だけでなく複数の専門業者に話を通して
より幅広い情報収集の手立てを目指します。
その際、具体的に査定をしてもらい資産価値を確認することも
後々必要になるデータですから依頼して損はないはずです。
この際も複数の業者に査定してもらえば妥当な相場が見えてきますし
相みつということで「買い叩かれる」ことも避けられます。

 自分たちから見れば過疎の進む田舎の家なんか
貰ってくれるだけで御の字、と思うかもしれませんが
専門業者の目から見れば住居以外での資産価値を見出して
想像以上の資産だったことを気付くきっかけにもなるのです。

 手間と時間を惜しまずに行動する、
これも必要な手続きということは覚えておいて下さい。

 

 加えて地元の自治体への相談も欠かせないことです。
場合によっては家の解体や取り壊しの際に助成金が支給されるケースも
ありますから地元の空き家対策制度等の情報収集も忘れずに!

 詳細は自治体ごとによって異なりますので
該当する自治体へ直接問い合わせをお願いします。

 補足になりますが、
空き家を取り壊して更地にしたような場合には
「減失登記」という登記手続きが必要になります。

 詳細は省きますが、
家屋を解体し更地にした方が売却が容易だとか
更地化したら用地として購入するといった商談の場合に
忘れてはいけない手続きです。

 法律上は建物が無くなってから一ヶ月以内の手続きと定められ
違反した場合10万円以下の過料を科すとありますので要注意です。

 

 

【家財の整理】

 いざ家じまいを決定した場合、
家に続いて直面する課題は室内外にある家財の始末です。

 特にひとり暮らしとは言え、
居住者がいる場合にはなかなか思い切った処置が出来ません。

 老親であれば長年の暮らしの中での様々な思いが溢れる品々を
まだ自分が元気なうちに処分することには大きな抵抗を示します。

 現実問題として、
親の決断で、親自身で家財の始末を断行出来たという事例は
私の知る限りではごくごく少数な事例でした。

 やはりこの場合は子供や親族の協力が欠かせなくなります。
親が亡くなった場合には家財はそのまま相続財産になりますから
相続手続きが終了するまでは勝手な廃棄や売却は出来ません。

 これに対して現在の所有者である親ならば
廃棄も売却も自分の意思で自由に決められます。

 せめて不用品の選別と処分までは
親が健在のうちに実行してもらうよう話し合いを進めるべきでしょう。

 当然この作業、親任せにせずに、
可能な限り親族も同席のもとで選別を進めることが
双方にとってプラスになることは間違いないことでしょう。

 

 

【役割分担】

 さて、家じまいも決定し、
家財の整理についても概ねめどが立った。
となれば、次は現実的な問題としての「費用負担と役割分担」です。

 家財の処分を開始することになった場合、
今度は親族には実家までの往復の交通費や
場合によっては宿泊費の発生も考えられます。

 不用品の処分にも廃棄費用、処理費用が発生します。

 仮に遺品整理を兼ねた家財の始末を全て専門業者に任せた場合、
家の規模にもよりますが、一般的には戸建てでは100万円台の費用に
なることを覚悟しなくてはいけないということでした。

 費用面の他にも課題は残ります。
誰が煩雑な家財処分の任を担うのか?
兄弟間等での押し付け合いも発生するかもしれません。

 一例ですが、
費用面は長男が全面的に負担、
次男以下が処分作業に責任を持つなど
明確な線引きをしておくことも必要です。

 移動距離が一番短いからとか
 長男なんだから
 一番可愛がってもらってたから
 一番裕福なんだから

 こういった主張をお互いが繰り返すと
まず確実に泥仕合、水掛け論の末に交渉決裂で
問題先送りは必至でしょう。

 これも事前協議によって
役割を明確にしておくことが
速やか、かつ効率的な作業となります。

 

 

 

【おわりに】

 以前は最高の財産と言われた家と土地ですが、
少子高齢化、過疎化、一極集中の人口移動などによって
今ではお荷物と化した実家の問題は今後も減ることはないでしょう。

 家というものはメルカリやヤフオクで処分できる代物ではありません。

 年齢に関係なく持ち家派の方はいずれは考えなくてはいけない問題です。
まだ自分たちは40代だから、と言っているうちにあっという間に当事者です。

 待ったなしのシニア世代はもちろんですが、
若くても家と家財の始末については年齢に関係なく遭遇する可能性があります。
今のうちからいろいろな情報を収集する習慣を身につけたいものですね。

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この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
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ブログ「新・先憂後楽」
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