【はじめに】
今回は60代以上のシニア世代のデジタル資産の問題を採り上げてみます。
今や60代でスマホを持つのは当たり前、70代80代でもスマホを持ち、
十分使いこなしているケースは珍しくなくなってきました。
外出時はスマホで、自宅ではパソコンで
趣味や仕事、さらには資産運用等にも利用範囲は拡大の一途です。
詐欺電話を避ける点からも
長年の固定電話信仰もかなり変化し、スマホのみというケースも
一般的になりつつあるようです。
今回は少し具体的にこの手の利用動向について調べてみました。
【インターネットの利用動向について】
総務省の「令和4年通信利用動向調査」によりますと
私が該当する60代(60~69才)でのインターネット利用状況は
86,8%とほぼ10人に9人が利用しているようです。
これが70代(70~79才)でも65,5%となっています。
さらに我々の親世代に該当する80才以上のシニア層でも
33,2%と80代以上のシニアでも約1/3が利用しているとありました。
利用機器については個人の場合という区分では
スマホが圧倒的で71,2%と突出しており
次はパソコンの48,5%、
インターネット接続テレビ(27,1%)
タブレット端末(26,4%)と続いていました。
スマホの保有状況は世帯の保有割合は90,1%で9割超え、
個人の保有割合でも77,3%と堅調な伸びを示しています。
参考までにリンクを貼りましたので
より詳しい情報を知りたい方は参照して下さい。
【デジタル資産の課題】
さてスマホでもパソコンでも
普段はどういう使い方をしているでしょうか?
緊急連絡先を含めた個人の交流関係が分かる
住所録やそれに付随するメモでどういう関係なのか迄
交友関係の全てを網羅している方。
70代80代の方でもネット証券の口座を開設し
証券取引を趣味と実益を兼ねて実施している方。
定期購読、通販サイトへの登録。
ネットバンキングの口座と各種公共料金等の引き落とし。
とにかくこれ一台で全てが集約されているのが
スマホやパソコンの最大のメリットです。
ですがそれが最大のリスクでもあるのです。
なんと言っても、このような情報の全てを知っているのは
契約者本人のみという事が大半という点です。
当然ですが内蔵する情報を見る為には
パスワードが分からなければ何も始まりません!
そしてパスワードを家族を含め他人に教えてるケースは
私の周囲に限れば、ほぼ皆無でした。
先に挙げた利用内容についてリスクを挙げてみますと
住所録や交友関係に関しては、本人に万が一の事態が生じても
連絡先が分かりません、訃報連絡も葬儀の案内も出せなくなります。
ネット証券での売買をしていた場合は
よりシビアな状況になり兼ねません、
株価暴落の際の追証にも対応出来ませんから
大損を被る可能性は決して小さいものではありません。
定期購読や通販を解約したくとも
そもそもどういう契約をしているかが把握出来ません。
クレジットカード等利用によって換金性の高いポイントが
自動的に貯まるケースでは金額によっては相続財産の対象となる
ケースもあります。
ネットバンキングでの支払いが自動引き落としの場合では
口座に残高がある限り延々と引落が続く恐れがあります。
特に金融機関のサイトについては
二段階の認証が設定されていたり、顔認証もあるようです。
これではパスワードどころの話ではありませんね。
本人にとっては紙の契約書や住所録などで懸念される盗み見や
盗難、紛失のリスクが防止できる点でメリットを感じるでしょうが
その反面、家族と言えど何も知らない状態からデジタル資産や
情報の存在自体を認識することが難しく、知ったとしても前述したように
内容を把握することは相当な困難が予想されます。
遺産相続の場合、相続手続きを終えた10か月後に
何らかの理由でデジタル資産の存在が分かったとすると
場合によっては延滞税や加算税の対象になってしまいます!
さらに知らないままだとなれば、永遠に闇の中で貴重な資産が
眠り続けることになってしまいます。
【自分の為と家族の為】
以前も書きましたが、セミナーの際に
「アナタの個人情報はどういう管理をされていますか?」
との問いかけに
「スマホに財産目録、家系図、友人リスト等を一括で
まとめてあります、これを見れば葬儀以降の手続きは簡単です。」
という回答をされた方がいました。
「ではその存在は家人はご存じなのですか?」
「パスワードは誰かに教えていますか?」
という問いかけには
「いや、それは・・・」
「勝手に覗かれる可能性があるじゃないですか?」
結局、その方しかその存在を知らない状態でした。
これでは、何もしていないのと変わりがないのでは?
高齢者に限らずいつ何が起こるかわからないのが現実です。
20代で心身健康な方でも突然の事故や疾病で意思を伝えられなくなります。
まだ早い、いつかは伝えておく、では間に合わないのです。
家族のためにと、
十分調べ上げてまとめておいた懸案事項や
個人に関する財産目録を始めとした各種の情報も
その存在を伝えていなければ存在自他がないものと同じです。
どこかに故人の情報があるはずと
時間と労力をかけたあげくついに発見出来ずに
不完全燃焼のまま各手続きを進めざるを得ない家族。
どちらも不本意であることに変わりはないはずです。
自分の為にも、遺される家族の為にも
特に内容の把握が難しいデジタル情報の扱いには
健全な体調の時にこそ、対応策を考えなくてはいけないのです。
【終わりに】
私の父もコロナ禍の際に遠方の友人等に電話する機会が増え
それまで通話一辺倒でスマホ機能の99%を使ってきませんでしたが
たどたどしくも住所録を作成し、受発信時の効率を改善しました。
これに味を占めたようで行きつけの病院や警備保障の連絡先窓
どんどんリストを増やし、室内で持ち歩くようになりました。
この反動でしょうか、それまで常に書斎の棚に置いてあった
紙の住所録を失くさないようにとどこかに収納してしまいました。
そしてその場所を忘れたのです。
ですが手元には全てのデータが収まったスマホがあるので
そのうち探し出せばと高をくくっていたのですが、
ある日不注意でスマホが機能不全となり1週間修理に出すことに。
こうなると不思議なもので探しても探しても
従来のリストの在り処が探し出せなかったそうです。
結局修理期間中に連絡が出来ずに困ったことはなかったようですが
どうにも不安な時間を過ごすことになったとのことでした。
たかが住所録でもこういう結果です。
もっと重要な情報であればどうなったことか?
そういった重要な情報は貸金庫に預けるのが一番、
という方もいますが、誰もが容易に貸金庫を契約出来る訳でもありません。
家族と同居しているのであれば
最低でもスマホやパソコンで管理、収納している情報の有無だけは
知らせておくべきですし、開示の為に必要な情報(会員IDやパスワード)
についてもストレートに教えなくとも保管場所は伝えておくなど
多少のリスクを考えてもやるべきことと思います。
おひとり様であれば却ってエンディングノートに必要項目を記載し
ノート自体を目につきやすい場所(パソコンの上、枕もと等)に
置くようにしておけば、闇に葬られることはないはずです。
60代の貴方自身も考えておくべきことですが、
80代の親や70代の兄弟などが今現在どれだけスマホを始めとした
デジタル機器を使っているかは常時把握しておきましょう。
ここでも親子間、親族間での情報の共有というものが
かなりの確率でトラブル発生を防ぐことに繋がるのです。
この記事の著者
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東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。
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