墓じまいについて

【はじめに】

 最近は週刊誌やテレビニュースなどで
「墓じまい」をテーマにした記事が目立つようになりました。

 正確には、「改葬」の手続きの中のひとつが「墓じまい」なのですが
一般的には墓じまい=改葬と記憶に刻まれているようです。

 

 今日は墓じまいであった勘違いと改葬の中での墓じまいの手順について
簡単に紹介していきたいと思います。

 

 

【墓じまい≠墓を無くすこと】

 墓じまいとは、自分の後を継ぐ者が皆無、
自分の死後はいわゆる無縁墓になる為、
周囲に迷惑をかけることになることから
生前に個人(代々の)墓を処分、消滅させる。

 だけではなくて、
その後新しい墓地や納骨堂に安置するか
前述したような承継者がないケースの時は
永代供養墓へ移すことまでが一連の流れとなります。

 単純に考えて墓石を撤去し、
墓地を更地化して寺に返還したとして、
肝心の遺骨まで「寺に処分を任せる」ことにはなりません。
ましてや勝手に骨壺ごと自宅に回収では法に触れることになります!

 お墓は仕舞えても、遺骨も同時に仕舞えることはありません。

 例えば東京から遠く離れた郷里にある我が家の墓を
自宅近くに用意した新墓や納骨堂に安置する。
 
 代表的な「改葬」がこの流れとなります。
改葬とは文字通り「改めて」「遺骨を葬る」訳です。
旧墓を「墓じまい」して遺骨を新墓に「改めて安置」するのです。

 墓を無くす(だけ)ではなく、移す(改める)のです。

 ですが最近は文字通り「墓を仕舞う」ことで
手続き終了という誤った考えを持った方が出てきました。

 確かに墓じまいと言う言葉からは「仕舞って終わり」
といった印象が無いとは言えません。

 ですがそれは大きな勘違いです。

 私が遭遇した墓じまいの勘違いとしては

 墓じまいで遺骨も処分出来る、
 顔も知らないご先祖様(の遺骨)とは
 この機会に「お別れ」出来るもの。

 遺骨とおさらばはしないものの
 墓参に行きにくい今の遠隔地(の墓)から
「自宅で安置」したいので墓じまいをしたい。

 まさに人の解釈は人それぞれ、
都合のいい形に解釈していくと言うものを実感した次第です。

 
 次の章では、
墓じまいを考えるに至った理由について実際の例を紹介します。

 その次に、
過去に何度も紹介しています「改葬の一般的な流れ」について
また改めて紹介したいと思います。

 

 

 

【墓じまいする理由】

 概ね以下のようなことが原因で
墓じまいを決意、又は検討に入るようです。

 

毎年のお布施の要求が重荷になってきた
・事故や病気で郷里(の墓)までの移動が困難になった
・住職が代替わりし一気に疎遠になった
・コロナ禍で墓参が出来なかった経験から身近な場所に移したい
・郷里の実家が親の死で空き家となり足を運ぶことが無くなったから

 等など、原因は多岐にわたってます。

 おカネの問題や人間関係の希薄化といった問題もありますが、
多くは親の世代が自らの考えで行動を起こすようです。

「子や孫にとって価値よりも負担が大きくなることが必至の墓問題を」
「まだ地元との接点を辛うじて持っている自分の責任でケリをつけたい。」

 ケリをつけるにはどういう手続きが必要になるのでしょうか?
次に墓じまい(から改葬に至る)の大まかな流れを紹介します。

 

 

【墓じまいの手順】

前提)親族間の了解を得る。
 
よほどのワンマンでない限り、墓の問題を独断で進めはしません。
まずは家族間での話し合いで合意を取り付けることです。
ここでの課題は何と言っても「費用」の問題でしょう。
後でも触れますが、今の墓を撤去する際の費用と、
新たな墓(墓地や納骨堂)に関連する費用を併せれば
やはり最低でも100万台の費用は覚悟すべきでしょう。

 次に親族がいる場合の説明と説得です。
原則では祭祀承継者が墓をどうするかを決めることが出来ますが、
だからといって独断・無断での実行は問題を生じます。

 特に墓のある郷里に未だに親族(分家家族等)が健在の場合、
祭祀承継についての相談をすることも選択肢のひとつです。

 遠隔地に住む親族がいる場合も
事前にその旨の相談や連絡は欠かせません。

 手順を踏んでおけば、
後ろ指をさされるような事態も避けられます。

 まずは、一族の総意を取り付けることが大前提です。

1)先に新墓を購入する
 まだ改葬、墓じまいと言う言葉が一般に浸透していなかった
10年前には「まず墓から遺骨を取り出して自宅にでも置いて」
「時間をかけて新しい墓や納骨堂探しを始めればいいか?」

 こんな考えが少なくありませんでしたが、
墓じまいの為には「先に新墓を確保しておく事」が先なのです。

 これを賃貸暮らしの引っ越しに当てはめればどうでしょう?
転居先を決めないまま、今の賃貸物件から出ていくことは
論外でしょう、生きている人も、遺骨も、考えは同じです。

 都市部では墓の確保が難しいことから都市型霊園の納骨堂に
人気が集中していますが、宗派の問題や墓参のアクセス、
自宅からの距離等を考慮しつつ、適当な価格の新墓を慎重に
探します。

 納骨堂の場合、
宗旨・宗派を問わないというケースは増えており
さらに遺骨の安置場所が地下や室内にあることから
天候の影響を受けずに墓参出来るといったメリットに加えて
公共交通機関、特に電車の駅から至近にあること、
周囲に繁華街が隣接している等の墓参に行きたくなる要素を
兼ね備えている施設も増加中です。

 契約成立となれば、
受け入れる納骨堂等から「受入証明書」が発行されます。
要は、「引っ越し先はここです。」といった証明です。

 

2)旧墓の管理者に意向を伝える
 墓じまい最大の課題です。
住職や管理責任者と面識があればあったで、
面識がなければなかったで、切り出すタイミングが難問です。

 冒頭に書いたように、高齢になった親世代が伝える場合、
歴戦の住職などからは「息子さんも本当に同じ想いでしょうか?」
「親戚筋の〇〇さんから何も聞いていませんが?」
等、うまくはぐらかして再訪を促し、時間稼ぎを図るケースがあります。

 質が悪いと思われるのが「ご先祖様はどう思われるでしょうか?」
「(この後)何もなければいいのですが?」など等、
祟りをほのめかすような口調になるケースもあるようです。

 こういう時に実際に帰路に駅で転んだ、留守中に家族が怪我をした、
翌週に仕事で予想外のミスをした、息子夫婦にトラブルが生じた…

 こうなると、「墓じまいなんて言い出したばかりに!」と
悪い方向に、自分から勝手に、考えを進めてしまい、
結果「墓じまいの撤回」と言う結論に達することがあるのです。

 そうならない為にも、

 墓じまいの申し出をする際には、
もっともな理由を見出してから行動を起こし、

一度口にしたら、初志貫徹の意気込みで事に臨む。

 このスタンスを忘れないことです。

 
 上記のような搦手で翻意を促す以上に厄介なのが
「離壇料の請求」「お気持ちの匂わせ」といった
おカネ絡みの交渉に持ち込む住職や管理責任者がいた場合です。

 話が前後しますが、今の墓に間違いなく遺骨が埋蔵されているという
「埋蔵証明書」が墓じまいには不可欠の書類となるのですが、
この発行(正確には証明書への署名捺印)は墓の管理責任者になります。

 理由はともかく、署名しない、ハンコを押さない限り
自治体も改葬を許可しませんし、新しい墓の管理者も受け入れてくれません。

 仮にこの埋蔵証明書がないまま
当該の自治体が安易に「改葬許可証」~後述 を発行したら?
同様に新墓の方も安易に遺骨を受け入れた後になって
それが盗掘されたものであったり、赤の他人のものであったら?
当然ながら管理不行き届きの責任問題となります。

 問答無用で「ハンコを押せ!」の態度では
交渉決裂どころでは済まないでしょう。

 あくまでも先方の了承の上での「円満合意」の結果として
証明書発行という流れを目指さないといけません。

 ハンコを渋る原因の(おそらく)本音は「おカネの問題」と思います。
承継者がいなくなった、高齢で墓参が叶わないといった尤もな理由で
翻意が叶わないとなると、次は「おカネの問題」が出てきます。

 建前では「没後30年間、毎朝の読経、墓石の掃除、草むしりなど
これまでのお世話への感謝の気持ちとしてのお布施」なのですが、
「いくらくらいが相場でしょうか?」と打診しても
「お気持ちで結構です。」としか言わないようです。

 ですがあるケースでは、そう言われた為に
熟考した結果、相場の10万円を包んで渡したのです。

 いったんは受け取った住職はその場で中身を確認し、
「御冗談でしょう」と言って突っ返してきたそうです。

 狡猾なのが、
「少なくて冗談」なのか
「高額なので冗談」なのかは明言しないのです。

 結局この方は30万を包んで再訪したところ
今度は受け取って署名捺印したそうです。

 

3)役所で必要書類を入手する
 正確に言えば、2)より先に行うものです。
今の墓を管轄する市区町村役場に出向いて「改葬許可申請書」
と言う書類を入手します。

 これに2)で述べた「埋蔵証明書」が併記されています。
(但し自治体によっては書式が異なるので確認が必要)

 事前に墓じまいの意向を伝えず、
訪問した際に直接今の墓の管理者に申し出る場合は、
先に役所に出向いて書類を確保して出向きたいものです。

 場合によっては予想外にとんとん拍子で交渉成立、
その時に肝心の書類をまだ入手しておらず、入手後に改めて訪問したら
気が変わったのか、入れ知恵されたのか態度豹変される恐れもあります。

 必要事項を記入し、署名捺印された埋蔵証明書が入手出来たら
再び役所の窓口に出向き、提出します。
何も不備がなければ「改葬許可証」が発行されます。

 言葉通りの意味で行けば、これで「墓じまい」は
いつでも好きな時に行うことが出来ると共に、
新墓への受け入れも可能になる訳です。

 

 

【墓じまいから改葬へ】

1)旧墓の更地化 
 立つ鳥跡を濁さず、ではありませんが
前項の墓じまいに続く手順としては
今の墓の墓石の撤去、墓地の更地化が控えてます。

 この際に遺骨を墓から取り出して骨壺に納めて
一時的に保管します。

 新墓でも墓石を再使用するのであれば
それ用の運搬手段を講じますし、廃棄する場合も
専門業者とのやりとりが必須となります。
同時に墓地を更地化して、痕跡を一掃します。
 
 この業者探しと作業日程の決定が意外に難問です。
地方の寺の場合、長年つきあいのある業者が存在します。
そこを利用するなら比較的楽な交渉となるようですが、
全くの新顔を使用する場合には地元業者との軋轢も
予想されますし、寺自体が難色を示す場合もあります。

 また、単に撤去・更地化を実行するだけではありません。
この際に「閉眼供養=魂抜き」というプロセスが発生するのです。

 私の知る限り「閉眼供養」をしない事例は未経験です。
撤去作業の前に、正確には遺骨を取り出す前の時点で
供養が行われるので最優先に住職の日程や都合を確認し、
それに合わせる形で専門業者と日程調整を行うことになります。

 当日は遺族と工事業者が立ち並ぶ中、
住職の読経によって閉眼供養が始まります。
概ね読経自体は5~10分もあれば終了しますが、
この際「読経料」等の名目でお布施を用意するケースが
一般的です。いわば最後の「御礼=手切れ金」です。

 私が立ち会った事例は全て当日に閉眼供養から遺骨の取り出し、
業者による墓石撤去から更地化作業に入りました。

 中には墓石撤去や更地化は後日というケースもあるようで
その場合の立会いは遺族の方の判断に委ねられるようです。

 

2)新墓への納骨~改葬の仕上げ
 さて、仕上げは自宅近くに用意した新墓への納骨です。
ここでも事前に新墓の管理責任者と日程調整を図り、
「改葬許可証」を提出します。

 双方の都合のいい日を選び、墓地や納骨堂に納骨します。
この際宗派によっては「開眼供養」を行うケースがあり、
当然ですが、この場合には「お布施」の用意が必須となります。

 最近は特に都市型霊園や納骨堂では「明細料金」が一般化され
開眼供養の場合はお布施は○○円といった明朗会計が増えたようです。

 余談ですが「最新のお布施」の場合は「銀行振込」で
事前に済ませられる方式もあるようです。

 まだまだ少数派のようですが、
確かに衆人環視とは言いませんが
人前でのやりとりに抵抗のある遺族や
その場で金額を確認するという「俗世の行為」に
躊躇する住職も多くなったことから生じたやり方のようです。

 

【おわりに】

 正直な話、
人生で墓じまい(改葬)を2度以上経験することは
先ずないでしょう。

 墓じまい慣れした一般人なんて聞いたことがありません(笑)

 今現在の墓についても
所謂菩提寺の管理する墓地、
公営の墓地、
共同墓地などがあります。

 例えば村の共同墓地の場合では
管理責任者は寺でない場合もあり
その際は概ね「村の総代」といった
その土地の名士であるケースもありました。
(却ってこの方が離団料等の問題が発生しないので楽です)

 まず当該の墓の管理は誰が担っているかを
念のため確認しておきましょう。

 新墓についても
今と同じような墓地の中の墓
都市型霊園の納骨堂
民間か公営の墓地かの選択
最近話題の樹木葬

 など等、個々の事情によって
選択肢が拡がっています。

 

 最後に
最大の課題と書いた「離壇料」ですが
いくら法的な根拠はないと言っても
今まで管理をしてもらった事実は事実です、
お布施の延長線上、あるいはお布施仕舞いと考えて
ある程度の金額は想定しておくのも必要です。

 相場とは言いませんが、
多くの現場から聞き取れた範囲では
20~30万円が多いようでした。

 ただいきなりこの額を提示するよりは
墓じまいに至った理由や当方の事情などを説明し
先方の理解を得られた時点で申し出た方が
スムースに交渉が進むようです。

 

 一生に(おそらく)一度の経験となる「墓じまい=改葬」
ここで紹介したこと以外にもいろいろ問題はあります。

 まずは自分が心身健康なうちに取り組むこと、
優柔不断な姿勢で延期や撤回はしないこと、
全てを自分でやり切ろうとせず、専門家への相談や
経験者への聞き取りなども視野に入れておく事。

 これから墓じまいを検討されるならば
まずはここで紹介した内容を認識して下さい。

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この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
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