かなり手間がかかる趣味品の終活:書籍類

【はじめに】

 相続の発生後、事務手続きを終えた後に残る手続きの中で
最も手間と労力を必要とするのは家財整理ではないでしょうか?

 実は仕事の一環で依頼人他2人と同行し、
父親の死去によって空き家になった実家の家財調査の
立会いという業務を最近したばかりなのでより実感が湧きます。

 引き継ぐにしても売却、廃棄するにしても
家電品や家具類、食器関係等はある程度家族で見極めもつけられますし
取捨選択にそう時間がかかることはないというのが一般的です。

 ですが、故人の趣味の品々はなかなかそうはいきません。
中でも、最も苦労したというものが「書籍の処分」でした。

 

【書籍処分の課題とは?】

 80代前後の方で読書が趣味で自宅の書斎などに
愛読書、愛蔵書を多数所持しているケースは意外に多いのです。

 特にお気に入りの作家のハードカバーの全集全25巻、
昭和の時代、なぜか殆どの家にあった「世界大百科事典:全20巻」
といった大物等が当時のまま保管されているものの、
実際のところ当の本人もここ何十年と頁をめくったことがないという
完全な壁の飾り、部屋の置物と化しているケースが大半でした。

 加えて一冊単位でかなりの重さがあり、おいそれと移動も出来ず、
さらにハードカバーのサイズなので無駄に場所も取るといった
デメリットも無視出来ません。

 ある相談者の場合は、
90代の父親が2階の書斎になんと3千冊(!!)を超える
書籍を保管していて、正直なところいつか床が抜けるのではと
気が気でないといった声もありました。

 多くの場合、書籍の置き場所が2階の書斎と言う点も
共通しており、これがまた悩みの種となっていました。

 先に書いたように殆どがハードカバーや全集などの為
1冊自体が大きく、硬く、重いのです。
仮にビッグサイズの段ボール箱に納めた場合、
今度はそれを1階まで運ぶ作業が待ち構えています。

 まず重すぎて一人では運べない、
階段が狭くて下ろす際にかなりの労力を強いられる、
数が多すぎて1回では片付かない(20回以上往復等)

 大型の段ボールに入れて下ろせれば回数は短縮出来ます。
ですがその重さに耐えるスタミナがより多く削られます。
さらに階段での危険度は大幅に上がることとなります。

 少量に分けて運ぶとなれば一回当たりの負荷は軽減しますが
その往復回数は倍増以上の回数となり、結局疲労度は変わらなくなります。
回数が増えれば、今度は階段の上り下りでの危険度は増してしまいます。

 乱暴の極みで2階の階段から書籍を落下させる、投げおろす
といった選択肢も無いとは言いませんが、本と床や柱を傷だらけにする
リスクが発生することになりますし、心情的にも抵抗は大きいでしょう。

 これだけに留まらず
場合によっては本の角で指を強打したり
本の上げ下ろしで腰を痛めたり
埃まみれで目を傷めたりと
予想外の二次被害も生じてきます。

 1冊1冊で見ると軽く、場所も取りませんが
いつか気が付いたときには膨大なストックだった!
 
 この書籍と似たような苦労話を聞いたのがレコードでした。
いわゆるLPレコードの収集癖のある方で
改めて数えてみたら2千枚以上のコレクションがあったそうで
これも、かさばるし意外に重い、さらに保管にも持ち運びにも
細心の注意が必要と、本以上に面倒な存在だと話してました。

~ちなみに同じ趣味を持つ我が親友は5千枚!を所有だそうで
2千枚なんて数のうちに入らないと豪語してます~

 

【維持か売却か廃棄か】

 この様な特に趣味性の濃い書籍やレコード等の場合、
遺された親族が悩むのがその「価値=評価額」でしょう。

 ~確か作家のサイン本があったはず
 ~無名時代の処女作で初版本と言っていた
 ~作者最初の全集で今や絶版で手に入らない

 こういう情報があると
どうしても「もしかして高額な財産?」と思いがちです。

 そうなるといわゆる本の買い取り業者に一括して引き取ってもらう
~概ね文庫本で20円前後、ハードカバーで5円~50円が相場のようです
と言う選択はお宝品を捨て去るようなものと考えても不思議ではありません。

 とはいえ、それらしき本を本の山の中から探し出し、
ネットでの相場価格を調べるのは時間がかかり過ぎます。

 それなりの専門家の鑑定ともなれば
まず鑑定代が費用として発生しますし
多くは「持ち込みでの鑑定」ですから
交通費がかかり、時間も相当の時間がかかります。

 さらに鑑定結果が思っていたものと大幅に違うケースも
無論の事、大いにあり得るのです。

 サイン本であっても大量生産の品であれば価値は半減以下ですし
そこに所有者個人の名前が併記されてあれば却って価値が下がります。

 初版本も最近ではそれなりの部数が出版されるので
よほどの重鎮の限定品などでなければあまり評価されない
ハードカバーは場所を取るので今の住宅事情では
よほどのマニアでない限り文庫本に流れるそうです。

 今年に入って依頼された相続財産調査の一環で
約一千冊の故人のコレクションの出張鑑定に立ち会いましたが
全ての書籍合計で4万円ちょい!でした。

 実は一千冊のうち2/3近くが「評価額ゼロ」
さらにその引き取りまでも拒否されました。
理由の一つに保管場所の問題から「日焼け」しており
修復不可能として評価額ゼロとのことでした。

 無論、出張鑑定の場合はその費用も発生しますし、
作業の為の立ち合いの日程・時間調整の手間を考えれば
全く割の合わない作業となってしまったのです。

 地域によっては一度に大量の本のゴミ出しを拒否し
何回かに分けてのゴミ出しを指導されたケースもありました。

 このように、売っても雀の涙以下、廃棄するにも手間と
場合によっては処理費用の発生、維持する(相続する)気もない

 残念ながら故人の想い以外は無価値な相続財産になり易いのが
書籍などの趣味品と言えるでしょう。

 

【始末は早期着手で段階的に継続すること】

 趣味の品で雑に扱っていいものはありませんが
大きさと重さ、さらにその数量を考えると
終活の一環で整理、売却、破棄 のどれをするにしても
一回で片を付けようと思わないことです。

 所有する高齢の親は無論の事、
このブログの読者の多くを占めている50代以上の方にとっても
体力面の不安は無視出来ません。

 ぎっくり腰、捻挫、打撲、突き指…
これらに年齢は関係ありません。

 最悪なのは脚立で足を踏み外し
片足複雑骨折と言う事態を招いた方もいたのです。
この方、面倒だからと両手に本を抱えての上り下りを繰り返しており
何度目かの往復の際に、下手をうったのでした。

 ではどうすればいいのか?

 まだ子供家族と同居していれば
少なくとも時間的な余裕と人手の助けは期待出来ます、
大勢で決められた日に一気に片付けることも可能でしょう。

 厄介なのは空き家となった郷里の実家の場合、
大量に遺された書籍等の処分の場合です。
自宅からの距離にも寄りますが、遠隔地の場合であれば
家族総出と言うのも各自の調整が手間ですし、
自家用車以外での移動となれば交通費も割高です。

 仮に4,5人の家族で行ったとしても
作業にかけられる時間はかなり限られます。
なかなか趣味品の整理だけで泊りがけと言うのも
現役の会社員や自営業であればかなり困難でしょう。
さらに空き家の状況によっては別途宿泊費が別途かかることも。

 日帰りともなれば時間の制約から
今度は処理できる件数が限られてきます。

 相続でなく、老親の終活の一環として行う場合、
高齢の親が健在だとしてもあまり大きな手助けにはなりません。
下手をすれば思わぬアクシデントの結果、
介護状態になってしまっては元も子もありません。

 またいればいたでなかなか取捨選択が出来ずに1冊の本の処分に
長い時間を要することも考えられます(あくまでも所有者は親ですから)

 

 終活作業でも相続作業でも共通して言えることですが
一挙に、全てを、完全に終わらせると考えないことです。
例えば初回は本の総数だけを調べる、種類・ジャンルの分類までする。
といった段取りの為の下準備に留め、全貌を把握しておきます。

 2回目以降は大判の本だけを処分する、逆に文庫本を全て
片付ける等、サイズ別に作業を進める等、効率のいい作業にします。

 この際、保存・維持する、売却する、廃棄する
を大雑把な判断でいいので選別し、3ブロックに分ける。

 廃棄本は迅速にゴミとして集積場に移動させるなど
部屋の中から消去することで進捗が明確になります。

 売却の場合、先に書いたように「金額に期待しない」ことを
徹底しておき、タダよりましと割り切りましょう。

 確実な進め方とすれば
実務に取り掛かって1回目が廃棄、2回目が売却、
その後は保管・維持とした本の再吟味
といったパターンで時間をかけて進めることです。

 出来る事なら、早いうちにこのサイクルを
実践しておくことで「本の処分への慣れ」を
身に着けておきたいものです。
1年に一度とは言いませんが、親子の日常生活に
差し障りのない日程で習慣付けたいものです。

 

【終わりに】

 本マニアの方との終活や相続の話の中でよく出てくるのが
「紙の本で読むことへの執着」
「手元に置いておきたいという所有欲」
といった理由でした。

 現在では電子書籍という新たな読書の仕方が拡大中です。
実際我々世代であれば電子書籍の扱いにもさほど抵抗はないはずです。
何と言っても場所を取らず、売却や破棄の手間もありません。
本棚の確保や増設なども無用になります。

 スマホ画面では小さすぎて読めない、読みにくいというのであれば
より大型のディスプレイとなるタブレット端末での読書も可能です。

 ですが、前述した執着心はこういった合理性を圧倒します。
ある意味、日常生活の必需品でない、個人の趣味の品という性質の為、
道理や効率面、または損得勘定だけで片付かない問題であることは
同じように厄介な趣味を持つ私も実感しています。

 但し、だからと言って何の行動も起こさなければどうなるか?
親の趣味であればいずれは遺産相続の対象になります、
相続後の処分は相続人である子供たちが負うことになります。

 先にも書いたように
中古本の買取業者なら出張買取もありますが
ほぼ10円台、100円台の買取で一括りです。
かといって目利きの専門家の鑑定となれば
鑑定する書籍の選別の手間が生じますし、
場合によっては先方に出向いての鑑定となります。

 稀には本物の稀少本と言う鑑定が出るかもしれません、
ですがほとんどの場合、思ったような鑑定額は出ず、
落胆して帰路に着く結果が多数を占めています。

 この他にはヤフーオークションやメルカリへの出品という
選択肢も存在しますが、ここでもなかなか買い手が現れず
ずっと自宅に死蔵されたままというケースもあれば
正真正銘のマニア垂涎の本であったことで望外の価格で
落札されるといった宝くじ的な幸運も無いとは言えません。

 時間的余裕や保管場所の制約がなければ
試してみてもいいかもしれません。

 その為にも出品に値する本か否かの
選別は早いうちから始めておくべきでしょう。

 親の所有する書籍ならば
早い時期に貴重本とその他の区分や
絶版本かどうか、無名時代の現代の巨匠の初版本の有無等
ある程度の分別は始めた方がいいでしょう。

 同様に60代の貴方がこの趣味の持ち主であれば
まだまだ体も動きますし、気力もあるはずです。
家族の手を借りてでも行動を開始です。

 さらにおひとり様であれば
より早い時期から断捨離の実践を推奨します。

 書籍はこの棚に収納できる分しか保有しない、
1冊買ったら1冊処分するなどの独自ルールを決めて
その行動を維持・継続しましょう。

この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
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