相続土地国庫帰属制度について

【はじめに】

 今回のテーマは
終活のさしすせそでいえば、「そ」の「相続」
または「せ」にあたる「生前整理」に該当する項目です。

 いわゆる「負動産」と化した相続土地を国に帰属することが出来る。
郷里の実家や使い道のない山奥の土地等を相続するような場合に
この制度が適用されれば悩み事が解消だ!

 と考える方は少なくはないでしょう。
ですが、申請イコール帰属OKと言う訳ではありません。

 ここでは、
制度における「却下」「不承認」という事項を
簡単に紹介したいと思います。

 

【却下とは?】

 これは申請段階で不適当と見做されるケースです。

 代表的なケースとしては以下のケースが該当します。

 ・建物がある(残っている)土地
 ・抵当権が設定されている、他地上権や賃借権などが設定された土地
 ・墓地や通路、水路などの利用が予定されている土地
 ・特定有害物質で土壌が汚染された土地
 ・隣接地との境界線が不明確なままの土地

 多くの場合、廃屋同然の実家が残っているケースや
隣接地との境界線が不明確な場合や、その隣接する土地の所有者自体が
消息不明といった事例は田舎になればなるほど多く見受けられるようです。

 今のままの(面倒な)状態のままで国は受け取りはしません。

 仮に申請時に上記の要件には抵触せず審査に移ったとしても
この段階でもさらなるチェック項目があります。

【不承認とは?】

 これは審査段階で不適当とされるケースとなります。
前項にある「却下」は免れたとしても、今度は以下の案件に該当すれば
不承認という結論に達します。

 ・一定の勾配や崖のある土地
 ・廃屋や放置車両等の管理処分を阻害する物がある土地
 ・産廃物等管理処分の為に除去が必要な物が地下にある土地
 ・公道に繋がっていない土地
 ・その他、災害等の危険があり管理処分に費用・労力が発生する土地

 このような要件に該当せず、
問題なしとされた土地が、国による引取りの対象となります。

 上記のような案件があった場合でも
更地にしたり、有害物の除去、災害の危険排除を図ることで
改めて引取りの対象となるケースもあります。

 ですがその場合、
そういった阻害要因をクリアにするための費用は
当然ながらその土地の所有者が負担することになります。

 廃屋の解体・撤去や土壌調査、境界線の確定等など
場合によっては相当額の費用を覚悟しなくてはいけません。

 加えて承認を受けた後には
「管理に必要とされる費用の10年分」の負担金が課せられます。

 

 仮に原野であれば、一般的には概ね20万円が目安となりますが、
農地や山林、宅地の場合は区域によって金額は変わってきます。
無論20万円以上になるという意味です。

 

 以上、ザッとした説明でしたが
自分にとって不要・無用な土地だからといって
相続土地国庫帰属制度によって容易に国へ帰属させることは
困難と言うことはお分かりいただけたでしょうか?

 

【負動産化を防ぐには?】

 高齢の親が健在であれば、
親の代で売却や寄付といった処分方法を考える必要がありますし
既に負動産として相続したままの土地であれば、
先ずは相続人が地元の不動産業者等に売買の相談をすべきでしょう。

 ただ、行楽地に建てた別荘や
都市計画で道路や施設の建設候補地にかかる区域の土地等は
比較的売却の可能性もあります。

 この反対に、深山幽谷にある山林や畑等については
事実上買い手がつくことは難しいと思います。

 私の知る事例では、
まさに公道にも接してなく、境界線もあいまいな山奥の土地を相続し、
どうにも手立てがなく持て余していたところ、
突然高速道路建設の話が決定となり、その土地が用地買収の対象になり、
思わぬ形で「売り先」が登場したのです。

 当然所有者は即答で買収話を受諾し、
先方の言い値で売却したとのことでしたが、
これはあくまでもレアケース中のレアケースでしょう。

 大多数の場合は、持て余したあげく、
毎年毎年固定資産税を払い続けるだけの悪循環に陥っています。

 

 もっとレアケースでは
地方にしては珍しく隆盛を続ける名刹の隣接地だったことで
寺からの土地購入の相談が入り、速攻で売却したケースがありました。
取得した土地で納骨堂か宝物殿を建設し活用するということでした。

 こういった幸運も
ほぼ99%の方には無縁なものと考えた方がよさそうです。

 

 売るに売れず、使い道もない土地を所有し続ける…
こういう事態を少しでも避けるためには、
まずは、親からこういった土地の有無について確認することです。

 仮に(不幸にも)
自分の知らなかった存在が明らかになれば、
早々に親と共に現地確認に赴くことです。
実情を知らなければ対策の打ちようがありません。
親も長年訪れていなければ記憶と大きく変わっているかもしれません。

 中には肝心の親自身、そう言った土地の所有者であることを
知らないまま今に至ったという厄介なケースもあるのです。

 親の記憶だけに頼らずに一度は本籍地や戸籍から
親の家系がどこで暮らしていたかを確認することが肝要です。

 

 調査の結果、該当する土地があった場合には、
次は地元の不動産業者を調べていきます。

 全く土地勘も人脈もない場合には
当該の自治体の窓口で問題の土地の処分について相談し、
こういう仕事に慣れた業者を紹介してもらうことも可能です。

 相談の結果、脈があれば連絡先を交換し、
場合によってはその業者に商談の代行を委任することも
選択肢の一つとして視野に入れておきたいものです。

 また兄弟がいる場合は、
可能な限り兄弟(土地の相続人になる人物全員)揃って
現地確認をしたいものです。

 

 おひとり様の場合はより深刻です。

 他に相続人がいないのですから
大原則として自分の判断で「不動産=負動産」を
生前処分しなくてはいけません。

 既に親と死別している場合には
全てを自分で調べることになりますし
まだ親が健在である「おひとり様予備軍」であれば
この点についての確認を早急にすべきです。

 迅速に具体的な行動を開始して
僅かな金額でも円満に売却を図り
後顧の憂いを無くすようにするか?

 この制度の適用を最終の目標として
土地の整備や必要となってくる一定額の費用を
工面することを優先するか?

 選択は貴方の自由です。

この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
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