65才以上の高齢者おひとり様

【はじめに】 おひとり様の心構え

 いきなりですが、令和4年の「高齢社会白書」のデータによりますと
2020年時点で65才以上のひとり暮らしは、約670万人だったそうです。

 生涯おひとり様に加え、離婚や死別で「また」おひとり様も
含まれているこの数字は、現在家庭を持っている方にも他人事ではありません。

 ここでは現在おひとり様の65才以上の高齢者に加え、
おひとり様予備軍でもある高齢夫婦にとっても注意すべき点を紹介していきます。

 

相続発生は双方向で考える

 相続の問題・課題というと、
一般的には夫が先立ち、遺された妻が諸問題に直面するケースが
思い浮かびますが、当然この逆のパターンもあり得るのです。

 多くの場合、
夫側は万が一を考え遺言やエンディングノートの作成を考え、
財産目録や相続人の一覧などを用意します。
特に以前に大きな病気や事故に遭った方ほど積極的に行動するようです。

 ですが、
妻の方はあまりそういう意識がある訳でもなく
自身の家系や存命中の親族の情報等も、
夫にはあまり伝えていないとも言われています。

 当然自分の財産、あるいは個人情報
(有料会員の契約、友人知人関係等)を
進んで夫に話すケースも多くはないということです。

 仮に夫が自分の死後の手続きについて事前準備を終えていたとしても
妻が先立った場合は大幅な軌道修正を強いられます。

 まずは妻を相続人とした遺言書が無効になります。

 さらに妻の死を誰に伝えるか? 
友人や知人の連絡先探しに苦労します。

 同じ様に
妻も遺言書を作成していても
夫が先に亡くなれば相続の発生によって自身の財産が大きく変わる訳で
せっかく作成した遺言書も無効になってしまいます。

 さらに
別居している子供がいれば不完全な遺言書では遺産相続の際に
効力を発揮しません。

 加えて遺産相続に不満のある子供がいれば
遺産分割協議も難航は必至でしょう。

 

日常生活への対処

 よく妻に先立たれた夫が直面する問題の代表例に
日々の生活が出来なくなることが挙げられます。

料理は出来ない、
どこで何を買えばいいかもわからない。

家の中の収納についても
無関心だったために衣替えが出来ない、
下着の替えの収納場所が分からない。

下手をすればガスが点けられない、
湯も沸かせない、当然?風呂も沸かせないなど等、

 

 ですが
夫に先立たれた妻にも同様の問題は発生します。

 専ら財産管理を一任していた場合が代表例ですが、
車の運転が出来ない妻の場合は、夫の死後直後から
日々の行動に支障が出る場合があります。

 買い物や通院等に常時車を使っていた場合等は
まさに死活問題となります。

 この他にも
妻は自炊に関しては問題なしと言えますが、
自身が病気や事故などで台所に立てなくなった場合の代替策を
全く考えていないケースがあります。

 食事のデリバリーや公的サービスでの宅配等も
今までは無用の存在でしたがいざと言う時には欠かせないサービスです。
こういった情報も元気なうちに収集しておく必要があります。

 私のように若いうちから今に至るまでひとり暮らしをしていれば
いろいろな生活の知恵や工夫を身につけることが出来ます。

 ですが、
若くして結婚し家庭内のことは全て妻が、外部に関することは全て夫が
という役割分担を続けていれば、機能停止に陥るのは避けられないでしょう。

 

 

おひとり様の相続

 さて、
高齢者のおひとり様が考えておくべきことに「相続」があります。

 親も子供も兄弟姉妹もいない正真正銘のおひとり様は
自分の財産を誰に相続出来るのか?

 相続に関して言えば
法定相続人になれるのは配偶者、
第一順位の子供、孫の直系卑属、
第二順位の父母、祖父母の直系尊属、
そして第三順位の兄弟姉妹と甥や姪の傍系血族です。

 繰り返しになりますが、
ここに該当する人物が皆無の場合、
自分の財産の行方はどうなるか?

 

 可能性は低いですが、
遺言書がない場合、生前に故人と親しい関係だった相続人以外の人物が
特別縁故者の申し入れをすることがあります。

 裁判所の判断で
縁故の内容に応じて遺産の一部が配分されるというものですが、
実際には故人や特別縁故者の望み通りの判断は下されません。

 

 そうなった場合、
遺された財産は最終的には国庫に収まることになるのです。

 

 

相続ではなく遺贈という方法

 自分の死後の話だから、
財産がどうなろうと構わないというなら別ですが
国庫に取られるのが嫌だとなれば、やはり頼みの綱は遺言書となります。

 

 相続人がいない場合でも「遺贈」という手段があります。
相続財産を精査し、遺贈する人物や寄付する団体などを決めます。
その相手に遺贈する財産御配分を決め、その旨を遺言書に記載しておきます。

 この際、遺贈先の正式名称(個人名や団体名等)と所在地を明記します。
また遺贈の場合も予め先方の遺志を確認し了解を得ておく必要もあります。
勝手な判断で先方に伝えないまま記載しても遺贈は拒否が可能ですので
せっかくの想いは報われず国庫のものになってしまいます。
必ず先方と遺贈に関しての了解を得て、合意した旨を明記します。

 公正証書遺言で作成の場合は、
受遺者の身分証明書の写しの添付が必要になるので
この点も先方と確認しておくことが必要です。

 さらに、
受遺者を遺言執行者に指名しておけば
手続きもスムースに進められますが
場合によっては専門家に依頼することも
選択肢として想定しておくべきでしょう。

 ただ遺贈の場合は
内容によっては不動産取得税が課税されたり
相続税の2割加算が適用されます。

 相続税の基礎控除3,000万円は適用されますが
法定相続人一人につき600万円の控除は適用されないなど、
多くの注意点があります。

 NPO団体や自治体、法人格のある団体等の場合には
相続税の対象外で非課税となったり
(その代わり法人税が課税される場合があります)
いろいろなケースがあるので
自身で全ての手続きを行うつもりならば、
やはり心身ともに元気な時にこそ取り組むべき課題であるのは
言うまでもないことです。

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この記事の著者

寺田 淳
寺田 淳寺田淳行政書士事務所 代表
東京は新橋駅前で「寺田淳行政書士事務所」を開業しています。
本業では終活に関連する業務(相続、遺言、改葬、後見、空家問題等)を中心とした相談業務に従事し、さらにサラリーマンからの転身という前歴を活かした起業・独立支援に関する支援業務やセミナー講演等を開催して、同世代の第二の人生、第二の仕事のサポートも行っています。

主に以下のSNSで各種情報を随時発信しています。
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